研究概要 |
本研究は,第一次大戦期に基本的な枠組みが形成され,その後,大量生産産業における労務管理の主要な流れとなる「労使関係管理」industrial ralationsについて,その起源と歴史的展開過程とを実証的に検討し,とくに安全運動との関連を明らかにするものである。今年度は,以下の二点について新たな知見を得ることができた。 1 安全運動と労使関係管理との関連については,(1)この運動の中心的プログラムである安全委員会が労使協議制として機能するようになり,そこに従業員代表制の原型を確認することができること,(2)安全運動の指導者「セイフティ・マン」と技術者との間に当初安全対策をめぐる意見の食い違いがあったが,やがて安全運動のなかに潜在的に含まれていた労使関係管理特有の労働者観に技術者の理解が及んだことを明らかにした。これは安全運動が,技術者たちの意識の根底にある伝統的な労働者観に変革を迫り人事管理への接近を可能にする要因になったことを意味している。 2 安全運動のなかから多様な福利厚生活動が生成したが,それがさまざまな非営利団体によって企業の外部から支えられていた点が興味深い。19世紀末葉からの企業規模の飛躍的な拡大と移民の大量流入は,労働者福祉を専門に取り扱う非営利組織の活動をおおいに刺激し,企業もまた自己の福利活動をそのような専門家組織に依存する方向を辿った。このような私的福祉の部門間協力の実態を,セイフティ・マンとシカゴ訪問看護婦協会の派遣する産業看護婦との共働作業のなかに具体的にたどることによって,安全運動の社会統制としての側面を明かにした。 3 今後、以上の研究を発展させ,(1)第一次大戦期までをも視野に入れて,労使関係管理の成立をあとづけることと,(2)人事管理運動の主要な源泉のひとつである雇用管理運動について,安全運動との関連を究明することが次の課題となるであろう。
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