研究概要 |
この論文の目的は、高度成長期における金融規制の効果とその波及メカニズムを分析することにある。この分析により、高度成長期においては、預金金利規制は厳格に有効であったのに対して、貸出金利規制は有効ではなかったことが明らかにされている。また、本稿では、預金金利の低位抑制が主に二つのルートを通して戦後日本の経済発展に寄与していたことが示されている。一つは企業の資金調達コストを直接に低減させるものである。もう一つはレント効果で銀行の安全性と効率性を高めて金融進化を促進するものである。さらに、本稿では、高度成長期の金融政策波及メカニズムが分析されている。高度成長期においては,都市銀行がインターバンク資金を貸出の限界原資として調達することがなく,公定歩合操作は都市銀行の貸出行動に直接影響を与えることができないので,都市銀行の貸出を引き締めるために直接規制である窓口指導が必要となったことを示している。また,一方,公定歩合操作は,単に都市銀行以外の銀行の貸出を引き締めるだけでなく,都市銀行を窓口指導に従わせる重要な手段であったことを明らかにしている。 このような研究は、日本高度成長の金融メカニズムの解明だけでなく、不安定な金融システムをもつ途上国と市場移行経済にも重要なインプリケーションをもつと思われる。この分析により、預金金利の低位抑制は、不良債権処理と金融システムの安定化に非常に有効な手段であったことが明らかになっている。また、日本金融規制の経験から、規制といっても、それを如何に市場メカニズムに取り入れて市場ベースを活用するのは経済パフォーマンスを決める重要なポイントとなることが示されている。
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