1.家計構成の相違を処理する方法として、家計内における規模の経済性を推定して「等価所得」を求め、それを基に不平等度を計測する方法があり、本研究では、等価所得に関する理論的基礎づけを整理し、日本における等価所得の推定と家計構成の相違を考慮に入れた不平等度の計測結果を検討していく。分析の結果、世帯所得で測ったジニ係数の値と世帯員一人当り等価所得で測ったジニ係数の値が近いことが示された。 2.戦後の分配状態の長期的変遷を調べることにより、近年進みつつある所得分配状態の不平等化の特質を明らかにした。そのために、1963年から1991年までの『家計調査』に記載されている全世帯、勤労者世帯別の年間収入五分位別所得データを用いた所得のジニ係数値の変化を調べ、日本における分配状態が時系列的にどのような要因によって変化してきたかを回帰分析により明らかにした。また、帰属家賃、金融資産所得といった資産所得まで含めた総所得の分配状態を評価した。分析の結果、資産分布の不平等とそれに伴う帰属家賃所得の不平等は、日本の所得分配の不平等を規定する大きな要因となっており、分離課税方式を基本とした現行の税制度が帰属家賃所得を含めた所得の再分配機能の面で、総合課税方式に比して劣っていることが明らかになっている。 3.日本の公的年金制度の下において、世代間および世代内の所得再分配がどの程度行われているかを実証的に調べ、年金による所得再分配の意義と役割について議論した。分析の結果、年金制度による所得再分配は、個人の近視眼の程度が大きい場合には、再分配政策の非効率性を低くさせながら引退期の消費を保障するという意味で、税制よりも優れていることが示された。
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