戦後一貫して技術導入と輸出指向型フルセット工業開発で高度成長を遂げてきた日本企業は、垂直的国際分業(原材料輸入、工業製品の輸出)から市場指向の水平分業(海外現地生産と技術移転、製品輸入、得意分野のすみ分け)への転換を迫られている。国内産業の空洞化を最小限に止どめるためには研究開発機能を強化し、国内拠点工場における先端技術と超熟練工の技を結合させたプロダクト及びプロセス・イノベーションを推進しなければならない。 2度のオイル・ショックとG5以降の急激な円高に対応すべく重化学工業部門の企業(鉄鋼、造船)は経営再構築のため従業員の新規採用停止、さらには配置転換、出向等を行った。その結果従業員の年令構成は、中堅層の極めて少ない中高年層が主力のワイン・グラス型となっている。現場の小集団QCサークル活動、工夫改善、現場自主技術の開発等を実践し、モノ作りにより企業の発展に貢献してきた超熟練従業員の大量退職は、企業の技術能力の低下を意味する。60年代には伝統技能の保全のためのスキルズ・イノベントリ-が提起されたが、技術革新(自動化、ME化、ロボット化)の進展と企業の成長の中では、重要な問題として認識されなかった。しかし現時点では定年前の超熟練者から青年、若年者への『技術(技能)の伝承』は、職場の根底的な問題であり、これを放置しては21世紀の日本におけるモリ作りは、危機に瀕することになる。そのためには画一的な企業内教育訓練システム(階層別、職種別)では不十分である。企業の事業を支える中核的技術(技能)のリストアップ、分析・評価、その保持者の特定を行うこと。さらにはジョブロ-テーション方式の見直しと職務再設計技術伝承のための指導員制度の充実、緊急退避的処置としはて定年退職者の再雇用による伝承が不可欠である。
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