研究概要 |
リーマン幾何学の中の測地線の幾何学においては,ほとんどの結果が,ヤコビ微分方程式やリッカチ微分方程式の応用として得られている.この点に注目して,ヤコビ微分方程式とリッカチ微分方程式が応用できる研究対象を広げた.その結果,勾配流,自然なラグランジュ力学系,ホイヘンスの原理が成り立つ力学系,フィンスラ-幾何学,ビリヤードボール問題,マグネティック流などに応用できることが分かった.本年度は,特に,勾配流について研究した. 酒井は,1996年に,大きさ一定の勾配流の存在とリーマン多様体の距離構造が密接に関係していることを示した.この定理を題材として,リーマン多様体の分解定理をある性質を持ったベクトル場の存在から導き出した(酒井の定理の拡張).この過程で,定数項が対称行列であるリッカチ微分方程式の実数全体で定義された対称解の一意性が大きな役割を果たした.この場合には,対称解は対角行列で,すべての対角成分が等しくなる.従って,1940年に矢野から始まり1965年に田代によって解決された共円ベクトル場が存在するリーマン多様体の分類定理につながったのである. 今後の課題は,この分類定理を参考にして,定曲率空間を特徴づけるようなベクトル場の条件を調べることである.また,一意性の問題と平行線の問題,更に,それを組み合わせて,ユークリッド空間の特徴付けに発展させることである.
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