研究概要 |
リーマン多様体の1点の最小跡について,曲面の場合には,C^2級のリーマン計量ならば最小跡の長さは有限となることが示され,Ambroseの問題(曲面)が肯定的に解決した.また,最小跡がフラクタル集合となるC^<1,1>級リーマン計量が存在することとも示されている. 本研究では,これらの事実の一般次元の場合について調べ,以下のような結果を得た. 1.最小跡がフラクタル集合によるのはいつか?を決定した.任意の自然数κに対して,C^κ級リーマン計量で最小跡がフラクタル集合になるものを構成した.C^∞級リーマン計量では,フラクタル最小跡はないことを田中(分担者)との共同研究で示した.どちらの結果も,現在,執筆を終え投稿準備中である. 2.最小跡の面積(n-1次元Hausdorff測度)が無限になるのはいつか?に関しては,C^2級リーマン計量で最小跡が面積無限大となる例を構成した.C^3級リーマン計量では,面積有限となることは,3の問題がC^3級で肯定的に解けれれば,その系となることが分かった. 3.最小跡はrectifiableになるか?に関しては,単位接空間ではの大円弧上の点を初期方向とする測地線の最小跡までの距離関数の有界変動性を示すことにより,肯定的な解決を試みているが,今の所,完全な解決には至っていない.しかし,第1共役跡までの距離関数のLipschitz性(田中との結果)と,曲面の最小跡が長さ有限となる証明のアイデアを用いて,特殊な場合を除けば解決したので,このままの方向で研究を続けることが望ましい.この証明に成功すれば,最小跡に距離空間として曲率を導入することもでき,最小跡の幾何学の発展が期待される. 4.一般次元のAmbroseの問題.計量の滑らかさと,最小跡がある意味でtree的な構造をしているという条件下では,部分的解決が期待され,また,3次元以上では一般には,反例が構成できるのではないかと思われるが,解決には至っていない.しかし,大域リーマン幾何への応用としては,この問題が,今後,重要になるものと思われる. 無限遠点の最小跡の構造の解明の必要性や,閉曲線の頂点とその最小跡の構造との関係なども,最近,指摘されており,この研究の重要性と継続の必要性が益々増してきている.
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