研究概要 |
本研究では,作用論的方法,すなわち行列空間のあいだの線形および非線形写像を利用することにより,行列論でしられていた種々の不等式および固有値に関する不等式の根元にある統一原理を探るとともに,新しい不等式の確立を目標とした。特に重点的に研究を集中したのは,Hadamard積に関連した不等式である。 2個の行列の指数関数のノルムの比較として重要なGo1den-Thompsonの不等式は,そのままの形では3個以上の場合に拡張できないが,Hadamard積を媒介とすることにより,少し変形した形での拡張ができることを見いだした。(論文1) 正線形写像による変換では,逆行列をとる操作をこの写像の前後に施すことにより順序関係が弱くなって現れる。この操作で順序が保存されることを要求すると,少し強い順序関係を規定する。この強い順序関係の本質を解明した。(論文2) 2つの正規行列の一方を固定し,他をあらゆるユニタリ行列から引き起こされる回転写像で動かしたとき,ノルムで計ってどこまで離れられるかが問題になることがある。この最大値に関して有用な評価を確立した。(論文3) 行列空間のノルムとして,0<ρ<∞をパラメータとするρ^-半径があるが,これの作用素論的背景を探求し(論文4),2つの行列のことなるパラメータに関する半径が判っているとき,この2つの行列のHadamard積に関しては如何なるパラメータでの半径に関する情報がえられるかを追求した。(論文5) 数列に関するHolderの不等式が,対象を行列としたとき,非可換性の困難をのり越えて,如何なる形で成り立つかを,特にHadamard積との関連で解明した。(論文6) これらの成果を含め,この研究で得られた成果を広く世界の研究者に理解してもらうために,英文の報告書を作成した。
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