研究概要 |
宇宙で起こる物理現象を基礎法則に従い理解しようとするとき,場の理論にもとづく素過程が周りの宇宙環境でどのように変更を受けるかが問題となる.従来宇宙論でよく採用されていた方法は,S-行列要素から崩壊率や反応率を求めてこれを熱的環境下で始状態と終状態の粒子分布で平均化するものであった.しかし,この方法では有限時間での量子性が十分に考慮されておらず,低温での緩和過程の扱いが正しくない. この研究では,経路積分に基づくFeynman-Vernon理論を発展させて,宇宙環境中での粒子数,および粒子占拠数に対する発展方程式を導いた.これは,従来は質量殻上のみの寄与を含む場合に,ボルツマン方程式として知られていたものであるが,本研究により質量殻外からの寄与を含み,量子力学効果を正しく取入れたより一般な結果が得られた.2体→2体の対生成と対消滅過程に対する場の理論模型をハートリー近似でガウス型にして無矛盾に解く方法を開発した. この基礎理論をもとにバリオン非対称の時間発展,ダークマター候補となりえる安定粒子の凍結過程の詳細な理論計算を行い,種々の新しい成果をえた.結果で重要なことは,温度が重い粒子の質量の〜1/10以下になるとき,ボルツマン因子e^<-M/T>による温度依存性が温度のべきに変ることである.ダークマター問題への影響はきわめて大きく,1GeVを大幅にこえる安定粒子は残存量が大きすぎて排除される可能性が高い.
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