研究概要 |
格子量子色力学において、ハドロンの弱い相互作用遷移行列要素の研究は、弱電相互作用を含む標準模型全体との関連を考えた場合、極めて重要なテーマである。本計画は、各種中間子の弱い相互作用遷移行列要素諸量に対して系統的な大規模数値シュミレーションを実行し、現象論的解析の使用に耐えうる高精度の物理結果を格子量子色学から引き出すことを目的としたものであり、以下の主要結果を得た。 K中間子bパラメータB_Kのクエンチ近似による精密計算。Kogut-Susskindクォーク作用及びWilsonクォーク作用それぞれに対する計算を行った。Kogut-Susskind作用に対しては、二種類の弱演算子を用い、0.24fmから0.041fmにわたる7つの格子間隔に対する計算を行って、連続極限値B_K(2GeV,NDR)=0.628(42)を得た。Wilsonクォーク作用の場合は、chiral Ward等式に基づく方法を用いて4つの格子間隔に対する計算を実行し、B_K(2GeV,NDR)=0.62(10)を得た。二つの作用に対する最終結果はよい一致をしめしており、クエンチ近似によるBパラメータの計算として、現在まで最良の結果を得たものと考える。(2)B中間子の崩壊定数のクエンチ近似による精密計算。この研究基本的な困難は、bクォークが重いことに起因する系等誤差をどのように評価するかにある。本研究ではWilsonクォーク作用と、有限格子間隔の効果を小さくするよう改善されたClover型クォーク作用の二つに対する計算を、それぞれ3つの格子間隔に対して実行し、El-Khadra-Kronfeld-Mackenzieの方法を採用してbクォークが重いことに起因する系等誤差を評価した。以上に基づき、D中間子、B中間子の崩壊定数に対する最前の評価値として、以下の値を得た:f_B=173(5)(9)(14)MeV、f_<Bs>=199(3)(10)(16)MeV、f_D=197(3)(14)(17)MeV、f_<Ds>=224(3)(16)(18)MeV。これらはClover型作用によるものであり、かっこ内は、(統計誤差)(有限格子間隔による系等誤差)(スケール決定の誤差)である。(3)弱い相互作用形状因子。以上の本格計算ならび、弱い相互作用形状因子の準備計算を実行した。結果は形状因子が中間子質量にかなり依存すること、統計揺らぎが運動量ゼロの場合に比べて大幅に増加することを示しており、連続極限での値を求めるには、これらの点のより詳細な検討と計算方法の改善が必要であるとの結論に達した。 以上の研究は、途中結果を各年度の「格子上の場の理論国際会議」で報告して来たが、K中間子BパラメータとB中間子の崩壊定数については最終結果がまとまったことに伴い、それぞれ論文を平成9年度に発表、雑誌投稿中である。
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