研究概要 |
QCD有効理論を用いて,カイラル対称性の自発的な破れのハドロンスペクトルへの現れ方,及び高温度・密度での対称性の回復に伴うハドロンの性質の変化を研究した. まず軸性U(1)対称性を破る相互作用を加えた拡張されたNJL模型を用いて,擬スカラーメソンなどの定量的な解析を行い,メソンとバリオンの質量,崩壊の性質が大きな軸性U(1)対称性の破れを支持することを指摘した.さらに,QCDの改良ラダー近似によるベーテ・サルピータ方程式の方法を用いて,擬スカラー中間子の性質を解析した.クォーク質量を有限とし質量の繰り込みを行い,また,有効模型における修正された軸性カレントを導入することにより,軸性ワード高橋恒等式などが正しく得られることを示した.数値計算では,中間子の質量及び崩壊定数,修正された崩壊定数,クォーク凝縮の値などを求め,それらの観測値をよく再現できることを示した.クォーク質量をパラメータとして,これらの物理量を計算し,改良された崩壊定数を使うとクォーク質量が100MeV程度でもGMOR関係式が良く成立する事を示した.その他,QCD和則の方法をSU(3)8重項と1重項のバリオンに適用し,基底状態と励起状態の質量差の原因がカイラル対称性の破れによることを解析的に示し,SU(3)8重項の負パリティ状態はほぼ縮退していること,SU(3)1重項のラムダ励起では,負のパリティ状態が基底状態となることを導いた.さらに,同じ方法でバリオンとメソンとの結合を解析した.さらに,正負パリティのバリオン対のカイラル群による分類を行い,2種類の変換性をもつ場合があることに注目し,それぞれに対応する線形シグマ模型を用いて,その現象論的相違について詳しくしらべた.核子の励起状態のカイラル電荷の符号によって,カイラル対称性が回復した世界での核子の質量の有無やパイオンとの結合の強さが決まることが解った.
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