研究概要 |
平成8年度から平成10年度までの期間に行った研究で得られた成果は以下の通りである。 1) 局所一様系の正準構造:コンパクトな3次元空間上の局所一様系に対して,初期データの微分同相類全体が作る相空間の正準構造を決定する一般的手続きを与え,モジュライ自由度が運動の保存量となることを示した.さらに,この一般論を用いて,ThurstonタイプがE^3,Nil,Solの純粋重力系の正準構造を完全に分類し,正準構造がモジュライセクターでしばしば退化することを見いだした. 2) 量子Bianchiモデル:1)の結果に基づいて,コンパクトな空間を持つE^3型時空の量子論的ダイナミクスを,研究代表者の提案した新しい理論形式(Web理論)を用いて解析し,従来のWheeler-DeWitt方程式に基づく議論と比較した.最も重要な成果は,Web理論での量子ダイナミクスは一般にはWheeler-DeWitt方程式の解ではなく,その一種の超関数的拡張により記述されることを明らかにした点である。 3) 膨張宇宙におけるスカラ場の摂動論:空間的に一様等方な膨張宇宙の背景でのスカラ場と重方場からなる系のゲージ不変摂動論の構造を詳しく調べ,摂動解の長波長極限と一様なモデルの一様摂動の対応関係を一般的に明らかにした.さらに,この対応関係を用いて,インフレーション直後の宇宙再加熱時での超ホライズンスケールのゆらぎの進化を解析的に調べ,この時期におけるBardeenパラメーターの保存則を確立した. 4) ブラックホール熱力学:エンタングルメントというアイデアに基づいて,平坦な時空およびブラックホール時空上での量子スカラ場に対してエンタングルメント熱力学を構成し,それがブラックホール時空に対しては古典的なブラックホール熱力学と同じ構造を持つことを示した.
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