研究概要 |
確率過程量子化法では実際の時空間のほかに新たな仮想時間τを導入し,その仮想時間に関する確率過程を設定する.量子揺らぎは確率過程の時間発展を記述するLangevin方程式の白色雑音項として取り込まれる.安定な基底状態が存在する場合には,この仮想的確率過程の熱平衡極限として,通常の量子力学によって記述される世界が実現される. 確率過程量子化法では熱平衡極限自体が興味の対象であり,それに到る過程の詳細は,仮想時間の進む向きを反転しない限り問題にならない.つまり,時間のスケールは任意に選ぶことができる.この自由度は数学的にLangevin方程式の積分核として取り込める.本研究ではまず第一にこの自由度を活用し,積分核を適当に選べば,大域的には不安定であっても局所的には安定な領域(ポテンシャルの極小領域)が存在するような場合,私たちは場の量が不安定領域に落ち込むことを回避できるアルゴリズムを開発した.さらに,シミュレーションにそのような機構の作用する理由を探り,その原因を突き止めた.第二に,その作用の数学的構造を解析的に明らかにし,このアルゴリズムの有効性を保証した. 実際の物理現象の中には興味有る不安定,あるいは準安定な系は多数存在するものの,その量子化を明確に扱えるものは存在しない.積分核を有効利用した確率過程量子化法はその可能性を探るもので,実際シミュレーションはうまく機能する.この研究ではその理由を限られたモデルの枠内ではあるが,解析的に示し,この枠組みの理論的基礎付けを行うことができた.今後は,より現実的な問題への適用が残されている.
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