位相的場の理論である2+1次元チャーン・サイモン型作用に基づく重力理論においは、2粒子の散乱振幅が、3点バーテックスを含むように拡張したウィルソンループ演算子、特に、四面体型の演算子の真空期待値を用いて記述される。場の理論の枠内でこの期待値を計算することはできないし、そもそもこの四面体型の演算子をどう定義したらよいかも分かっていない。しかるに、2+1次元チャーン・サイモン型作用に基づく場の理論は、2次元の可解統計モデルを統一的に記述する、1+1次元有理型共形場の理論と密接に関連し、その位相的性質と相まって、可解となる。即ち、ウィルソンループ演算子の真空期待値は、摂動論によらず、厳密に解けるのである。現時点ではまだ完全な形では解明できてはいないが、四面体型の演算子の真空期待値を具体的に計算する手法も、開発のめどがついた。 このように、2+1次元チャーン・サイモン型作用に基づく場の理論が解ける最大の理由は、そこに内在する豊かな数学的構造であるといえる。実際、ウィルソンループ演算子の期待値は、組み紐多項式に相当しているし、量子群との関連も明確にできた。但し、これらの数学的構造が、どのような形で物理と結びついているのか、場の理論の言葉でどう解釈したらよいのか、明確にされたわけではない。特に、2+1次元チャーン・サイモン型作用に基づく場の理論は適当なゲージ群のもと、重力理論となる。従って、重力理論とこれら数学的構造の直接的関わりを明らかにし、更には3+1次元の重力理論の理解を深めるべく、研究を積み重ねてゆくことが肝要である。
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