研究概要 |
我々は、Shwinger-Dyson法を有限密度の系に適用できるように拡張したNuclear Shwinger-Dyson(NSD)法を提唱し、それに基づいて、相対論的多体論を構築しようと努力してきた。p-h励起は,原子核の低い励起状態を作るリング型の相関で、非相対論ではRPAによって取り上げられてきた重要な相関である。相対論でもメソンが媒質中を走る時,p-h励起を作り,それが消えてメソンに戻るというリング型相関は重要な媒質効果と考えられ,これを相対論的堤の理論の枠内で取り上げたものがNSDである。NSDによって、リング型の相関が約5MeVM程度の引力として働くことが示された。 核物質の非圧縮率について、NSDはHFより少し小さい値を与え、平均場近似に近い540MeV程度の値を与える。これは実験値を200-250MeVに程遠いが、実はさらに高次のVertex補正をしたNSDでは、380MeVと大きく改善されることが明らかになった。 NSDは、中間子エネルギーでの核子-核散乱の光学ポテンシャルを導くのにも用いられる。特に、imaginary partの計算は他のモデルより優れている。Bonn potentialはp-h励起の4次のリング型ダイヤグラムを計算しているが、この摂動計算によって得られるImaginaryΣ_O,Σ_Sは、self-consistentに解くNSDが与えるものより数倍大きく,あまり良いものでないことが明らかになった。 中間子の自己エネルギーの表式について新しい表式pha表現を提唱した。この表現には、従来の表式に見られた非物理的成分が一切混じらないという利点を持つ。これを用いて、正しいメソンスペクトラムを導出した。有限密度のくりこみについても幾つかの知見が得られた。まず、密度に依存したくりこみ法をカット付場の理論の方法で見出し、次に、これを用いて、中間子の核内での質量の議論をした。さらに、くりこみ群の考え方に基づき、カット依存性のないくりこみのあり方、また、いわゆるくりこみ不可能な相互作用のくりこみ法を明らかにした。その他、核物質の結合エネルギーにおけるリング型相関の効果、核内mean free pathの導出、核物質の諸々の圧縮性物性値の導出、クォーク凝縮のハドロン系からの導出などを行った。 この3年間の研究の成果は、34の論文、68の口頭発表(うち国際会議5)として、まとめられている。
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