研究概要 |
Ice rule制限下での揺らぎの研究の例として,よく知られた実験結果が存在するDKDPの中性子臨界散漫散乱の計算を行った。これまで行われていたモデルは,Dのみによる散乱として計算するものであった。我々が提出したD_2PO_4の秩序無秩序相転移モデルの立場から,各D_2PO_4単位がSlaterモデルの6つの配置をとることを6state回転子で表し,回転子間の配置も相関関数をBethe近似で計算した。energyを表すparameterとしてはSlaterのε_0のみを導入し,配置の相関はIce ruleのみから生じるとして計算した。ice ruleを厳密に適用すると,この近似では一様な揺らぎしか計算出来ないことが判り,ice ruleから外れたexcited stateのenergyをε_0でscaleして,その比を変えて計算した。6つの配置の散乱因子は,DKDPの低温相の構造と,ADPの低温相の構造から求めた。数値計算の結果は実験で得られている逆格子空間での異方的な散乱強度contourをそのBragg点依存性も含めて良く説明する。成果はJ.Phys.Soc.Jpn 1997年4月号に掲載される。大阪大学理学部松尾研の実験結果によると,KDPはice ruleの制限が部分的に残っているとした方が比熱の実験結果をよく説明する。我々の散漫散乱の計算はこの考えと一致している。 この成果の上に立って,本題のice ruleが厳密に成立ているとされているhexagonal iceの散漫散乱の計算と数値計算を同じ6回転子モデルで行った。当然ではあるがDKDPと同じ異方的な散漫散乱のcontourが得られ,我々が予想した実空間での揺らぎとの対応も明らかになった。ただし,予想から外れた逆格子空間のc^*方向にのびた異方的な散漫散乱が得られたこの原因について検討中である。この結果は,本年8月韓国ソウルで行われる第9回強誘電体国際会議で発表される。
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