研究概要 |
不規則さを内在する量子力学系(量子カオス系)に摂動を加えた際の応答の統計的性質を調べることを目的とし,以下の2項目について研究を行った: (1)量子カオスとBerryの幾何学的位相の関係 Berryの位相とは量子系のハミルトニアンに含まれるパラメーターの断熱変化に伴い波動関数に現れる位相であり,パラメーター空間内のエネルギー準位の偶然縮退点より生じる仮想的“磁場"による磁束と見なせる。準位の偶然縮退は古典力学では系の非可積分性を意味し,量子力学的量であるBerryの位相と非可積分性から起きる古典軌道のカオス的振る舞いとの相関が期待される。この予想を確かめる為,2自由度系を用い古典軌道と断熱的“磁場"を計算した。“磁場"は古典カオス領域では大きく変動するが規則領域ではほぼ0になり,両者の相関関係を示した。今後は,カオス領域でエネルギー準位統計などに見られる普遍性をBerryの位相も持つかどうかを明らかにする必要がある。 (2)量子カオス散乱の記述におけるランダム行列模型の妥当性 応答関数の一つである電気伝導係数はメゾスコピック系では散乱行列で表される。散乱行列の統計的性質の理解の為,散乱領域のハミルトニアン等を適当なランダム行列に単純化する模型が使われている。しかし散乱過程には散乱領域内の滞在時間が短い軌道も寄与する為,ランダム行列模型の適用範囲が明らかでない。この適用範囲を調べる為に準1次元格子模型による数値計算との比較を行った。散乱領域と外界との結合が弱くなればランダム行列模型との一致がよくなるという定性的結果を得た。今後は,散乱の実験データからランダム行列模型によって記述できるだろう普遍的部分と個々の系に特徴的な部分を分離する処方を定めていく必要がある。
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