本研究では密度分布関数のレベルでいくつかのカオス力学系のふるまいを解析的かつ厳密に調べ、以下の結果を得た。1)2次元量子ビリヤードでの境界要素法と内部固有値問題、外部散乱問題:2次元の量子ビリヤードで用いられる境界要素法に出てくる行列式D(E)(Eはエネルギー)を調べ、D(E)が領域内部の寄与と領域外部の寄与の積で表され、ア)前者がエネルギーの関数として原点の分岐点を除いて解析的で、領域内部に束縛された粒子のエネルギー固有値E_nに零点を持つアダマ-ル型無限乗積表示を持ち、イ)Eが実のとき後者の対数は実軸上にカットを持つ解析関数の上半平面からの境界値で、ノイマン型境界条件の下での散乱の位相のずれの総和についてのコ-シ-積分で表され、その下半平面への解析接続が散乱共鳴で零点を持つことを示した。関西学院大学の首藤氏、ATR環境適応通信研究所の原山氏との共同研究。2)区分的線形写像のフロベニウス・ペロン(FP)演算子に関する昇降演算子法と関連するディリクレ級数:区分的線形な一次元カオス写像で各分岐が全射のときFP演算子の固有多項式は上昇積分演算子により生成される。各分岐の傾きの大きさが一定である場合、ア)FP演算子と上昇演算子が量子調和振動子の発展演算子と生成演算子の交換関係と類似した関係を満たし、イ)コヒーレント状態に当たる上昇演算子の固有関数系がFP演算子のwandering subspaceの基底になり、ウ)この関数系による展開式がフラクタル的な双対基底との内積を係数とするディリクレ級数になることを示した。3)保存的な決定論的拡散モデルにおける非平衡定常状態の研究:コペンハーゲンのTelによって調べられた流れを伴う多重パイこね変換型の保存的な決定論的拡散モデルにおいて様々な非平衡定常分布を構成し、経験則と合う定常状態が以前我々が調べたdyadicな多重パイこね変換の場合と同様、「延びる方向に沿う分布が滑らかである」という条件で特徴付けられることを見いだした。P.Gaspard氏(ブリュッセル自由大)との共同研究。
|