研究概要 |
本研究では、超高真空環境において、制御された表面からの高速イオン衝撃2次電子放出過程の中味を定量的に調べることを目的とする。従来、入射イオン1個あたりの薄膜試料からの2次電子の放出収量については、平均値のみが知られていた。今回我々が新たに独自に開発した測定法により、膜の前方後方への放出個数分布までが測定可能となった。実験は、東大原子力センタータンデム加速器から供給される22.5MeVイオンビームを超高真空実験チェンバー内の試料に導入した。試料は10〜100μg/cm^2の膜厚の炭素薄膜を用い、表面の清浄化のため、約700度で加熱処理した。 平成8年度には、C^<4+>,C^<5+>,C^<6+>イオンビームをこの炭素薄膜清浄表面に通過させたときの前後放出個数分布およびその相関の膜厚依存性、及び入射イオン価数依存性を観測した。これにより(1)まず分布は常にポアソン分布より広いこと。(2)前方後方放出平均個数は、2次電子生成領域でのイオンの阻止能を反映していること。(3)またその前後相関は正の相関が存在し、膜厚が厚くなるに従って小さくなることなどを観測した。平成9年度上半期は、さらに次のステップの、Si薄膜についての観測を行ったが、試料の安定性、清浄表面化に問題を残した。そこで下半期は、最近開発が進み、大気下でも負の電子親和力を持つことが報告されているダイヤモンド薄膜(厚さ1mm)を用い、大量の電子放出を予想して、測定を試みた。結果としては、その平均個数は、後方へはあまり炭素薄膜の場合と違いがないものの、前方へは倍程度の数に達し、薄膜製作法に依存して、表裏で表面状態がかなり異なっていることが確認された。また負の親和力という点では、かなり劣化していることが予想される。今後さらに薄膜作成条件や、ボロンド-ピング量等を変えて測定を行う予定である。
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