研究概要 |
本研究は,星を光源として吸光分光法により,成層圏における窒素酸化物の夜間の組成変化を測定しようというものである.従来,窒素酸化物の高度分布の観測では,日没・日出時などに測定可能な時間が限定されていたため,夜間の時間変化を追った観測データは存在しない.しかし,高〜中緯度の成層圏下部で現在観測されているオゾン層の減少を説明するメカニズムの重要な一部として,この高度領域で夜間生成される五酸化二窒素が硫酸エアロゾル上で硝酸に変換される過程が提唱されているため,窒素酸化物の夜間組成変化を追跡することは非常に重要である.そこで,1等星程度の明るさの星を光源にした測定が可能になれば,夜間に5-6回程度は二酸化窒素,三酸化窒素,オゾン,エアロゾル等の高度分布を測定できる.本研究では,そのために開発中の観測装置を,実際に地上観測を行いながら完成させ,それにより大気球観測をおこなうことが目標であった.しかし実際には,星追尾系の安定度がはじめ地上観測を安定に行うには不十分であることがわった.そこで星追尾系のモーターのサーボ機構をディジタル化して追尾精度を向上させたが,その改良に時間がかかったため装置は完成させることができたが,十分な地上観測が行えなかった.大気球高度での成層圏高度分布観測では,地上観測に比べ大気揺らぎがずっと小さくなるので,より安定に観測できるものと考えられるが,地上観測による十分な経験を積んでからでなければ,気球観測の実行はできないという判断から,本科学研究費補助金による研究期間中に気球観測を行うことは不可能であった.現在測定器の改良および地上観測については継続中であり,今後十分安定な観測ができると判断できた時点で,気球観測を実行する予定である.
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