研究概要 |
日高山脈の上昇は,ポロシリオフィオライト帯と西へ押し上がる日高変成帯との境界断層である日高主衝上断層の活動と関連している.日高山脈の上昇過程を明らかにするために,南部日高山脈を横断する二つのルートのト-ナル岩および変成岩に含まれる黒雲母について,また日高山脈の東西に分布する中期中新世〜鮮新世のモラッセ堆積物(日高側の受乞層,元神部層,厚賀層および十勝側の豊似川層など)中のおもにト-ナル岩礫の黒雲母についてK-Ar放射年代の測定を行った.また,中部日高山脈のFT年代の測定を行った.その結果,変成岩のK-Ar放射年代では,山稜付近の断層の西側では19-17Maの年代,東側では30Ma前後の年代を示し,明瞭に異なること,また前者の中新世年代は試料高度が高いほど若いことがわかった.同様の傾向は,FT年代でも認められる.モラッセ礫岩中の黒雲母K-Ar年代も山脈東西で大きく異なる.すなわち,東の十勝側では更新世後期の光地園礫岩(16Ma)を除き,中新世中期の豊似川層礫岩は45.9Ma〜33.1Maの年代を示し,モラッスの下部から上部へより若くなるという正常な順番を示す.一方,西の日高側では中部中新統〜下部鮮新統にわたってほぼ同じ年代(19-17Ma)を示す.このことは東側は正常な上昇をしているのに対して,西側は日高守衝上断層による回転上昇運動などの特殊な上昇機構を持つことが予想される。なお,45.9Maという年代はこれまで日高変成帯およびその北方延長で知られている火成岩のK-Ar年代のなかではもっとも古いものであり,日高火成活動を考えるうえで,重要なデータである.断層活動年代や山脈の上昇速度を推定するための基礎実験として,日高変成帯やヒマラヤの花こう岩質岩の石英の熱蛍光(TL)特性の測定を行い,火山岩起源の石英とは明らかに異なることがわかった.
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