研究概要 |
第四紀末に世界各地で哺乳類の大規模な絶滅現象が起こったことは,広く知られている。しかし,東アジアでは,そのような絶滅現象を体系的に解明しようとする試みは,これまでほとんど行なわれてこなかった。そこで本研究では,日本列島に分布する後期更新世と完新世の哺乳類化石産地のうち,絶滅哺乳類(ここでは地球上から完全にいなくなってしまった種や,現生種ではあるが現在の日本に分布しないか,あるいは日本の大部分の地域で見られなくなってしまった種)を産出している多数の化石産地について,化石産出層の層序や年代,哺乳類化石群集の内容などに関するデータを収集した。また,絶滅種とされる種類の主なものについて,その系統分類学的位置や地理的・地史的分布に関するデータを整理した。このようなデータにもとづいて,日本列島における第四紀末の哺乳類の絶滅期とその絶滅のパターンをまとめた。その結果,絶滅種とされるものには,20,000〜10,000yrs.B.P.の間に絶滅したと考えられるものが多いこと,絶滅のパターンには,中期更新世から次第に衰退し,遂には後期更新世末に絶滅してしまった場合や,後期更新世に栄えていたものが,後期更新世末に比較的急激に絶滅してしまった場合,後期更新世後期に大陸から移入し,日本に定着することなく比較的短期間で絶滅してしまった場合などがあることがわかった。一方,後期更新世後期から完新世にかけて,石器や土器などの考古遺物がどのように変化したかを調査し,その変化と哺乳類の絶滅との関係を調査したが,考古遺物の変化は漸移的で,北アメリカで見られるような劇的な変化はなく,日本列島での哺乳類の絶滅現象は,「環境の変化・過剰殺戮複合説」(Stuart,1991)で説明できる可能性があることがわかった。
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