平成8年度に関しては、主として装置の整備・保守に重点を置いた。具体的には、水熱実験で用いる反応容器として新たに高耐圧タイプのテストチューブ型反応容器を導入し、実験後の回収試料を測定するX線粉末ディフラクトメーターのデジタル化を計った。 平成9年度には、それまでに行っていた封圧が0.07GPaの実験シリーズに加えて、約2倍に当たる0.15GPaでの高圧側の実験を行う予定であったが、装置的なトラブルから高圧力シリーズでは数点の実験が成功したに止まってしまった。本実験では、同一の実験条件下(温度・圧力・H_2O含有量など)で最低でも3〜4通りの時間の異った実験が成功していなければ、相転移開始時間などの必要データを導出することができない。そのため、従来の0.07GPaのシリーズと高圧シリーズとの間の差違に関するデータを系統的に得ることができず、結果的に相転移を与える圧力の影響をシステマティックに議論することはできなかった。しかし、単発的に得られた高圧側の実験でのデータや平成9年度に導入した常圧炉での実験の結果を従来のシリーズのものと比較したところ、圧力が高いほうがオリビン相からスピネル相への転移開始が速まる-すなわち相転移の際の核形成頻度が高くなる-ように思われる。実際に、常圧では3ケ月以上のランでも相転移は確認できなかった。しかし同時に、圧力はさほど相転移の促進に効果を表さないことも示された。すなわち、HIPによる無水状態での高温高圧実験の結果、12時間のランではオリビンからの相転移は検出されなかったのに対して、もっと低い圧力であっても数重量%のH_2Oが添加されていれば数時間のランでも相転移の開始が確認された。このことから、オリビン-スピネル相転移には圧力よりもH_2Oの存在のほうが大きな影響を示すことが確かめられた。
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