研究概要 |
地球の下部マントルに多量に存在するペロフスカイトには,Mgに富んだ斜方晶系のものとCaに富んだ立方晶系のものとがあり,両者は互いに数パーセント程度まで相手成分を固溶することが知られている.本研究では両者の固溶体である(Mg,Ca)SiO_3をとりあげ,組成に応じた結晶学的・熱力学的・弾性的性質の変化を調べた. 固溶体(Mg,Ca)SiO_3の作成は斜方晶系ペロフスカイトMgSiO_3をもとに行なった.結晶内でのMg粒子およびCa粒子はランダムに分布させた.Matsui(1994)の粒子間ポテンシャルを使用し温度圧力一定条件下(T=298ないし1900K,P=26〜50GPa)でMgSiO_3からCaSiO_3にかけて組成1/16刻みでMD計算を行なうことにより,結晶系・格子定数・体積・エンタルピー・体積弾性率等を求めた.得られた主要な結果を要約すると以下のようになる. 1.Mgに富んだ結晶は斜方晶系(空間群Pbnm),Caに富んだ結晶は立方晶系(空間群Pm3m)となる. 2.斜方晶系の組成領域内では,結晶中のCa成分が増えるに従い体積が増大し,これに応じて体積弾性率は減少する.体積弾性率の組成依存は高温で拡大する. 3.Caに富んだ立方晶系の結晶は,Mgに富んだ斜方晶系の結晶よりも(体積が大きいにもかかわらず)大きな体積弾性率をもつ.この傾向は,ペロフスカイトにおけるモル体積と体積弾性率との間にある経験的な関係(Fischer et al.,1993)に調和的である. 4.混合の過剰エンタルピー・過剰体積は正となる. 今回の結果のうち,上記3が特に注目される.高温高圧下で(Mg,Fe)SiO_3ペロフスカイトの斜方晶系から立方晶系への相転移があるならば,それに伴って弾性定数の不連続的な増加(数パーセント程度)が期待される.
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