研究概要 |
本研究では、日本近海で発見された熱水噴出孔生物であるシロウリガイとハオリムシに着目し、両生物に含まれる硫黄の状態分析と、それらの生物の棲息環境である熱水噴出孔噴出物の研究により深海底における物質循環に寄与する硫黄の化学形を明らかにすることを目的とした。両生物は血管系が発達しヘモグロビンを有するにもかかわらず、ヘモグロビンと安定に結合し呼吸阻害を起こす硫化水素を利用する興味深い生物である。放射光を用いたS K-XANESスペクトルの解析によりシロウリガイの鰓に含まれる硫黄分は大部分が元素状硫黄であり、ハオリムシの後体は元素状硫黄の他に4価〜6価の硫黄が存在することを明らかにした。硫黄の化学形は、IRスペクトルからは評価できなかったので、XANESにより初めて明らかにすることができた知見である。SEM-EDXによる研究からこれらの硫黄は粒状であることもわかった。また、熱水噴出口からの噴出物にはアモルファスシリカが多く存在し、イヘアの噴出物にはSi,Mn,Ca,Fe,Cl,S等の元素が含まれ、結晶質物質としてはMgを含む方解石、クトナホラ石等が存在することが分かった。イゼナの噴出物にはSi,Ba,S,Fe,Zn,Cl,B等の元素が含まれ、結晶質物質としては重晶石、α硫黄等が見られた。シロウリガイ、ハオリムシの硫黄のスペクトルのEXAFSの解析を試みたが、測定試料が混合物である上に海洋生物である為硫黄のスペクトル上に塩素のピークが1部重なって解析の妨害となり、配位数や原子間距離の解析は困難であった。本研究の後半では、新しい研究手法として固体NMRのバイオミネライゼーションの研究への導入の基礎を築いた。また、研究対象を貝、魚類に広げヒザラガイ、ババカセの歯舌では種差による鉄鉱物形成の違いを示し、ウナギの耳石の研究では微量元素からその生育環境を明らかにすることができた。
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