研究概要 |
本研究は,複雑な地質構造のゆえに,多様な岩石の分布する長野県の山岳域より流出する渓流水の主要イオン組成分析結果と,流域に分布する岩石の質および化学組成との関わりを提示し,河川水質のバックグランド的性状を地図化することを目的とした。本年度までの研究で,県東部から南部に至る中央構造線近傍の水系,県西部の木曽川水系から北アルプスに至る水系の詳細な調査を完了し,主要岩石の組成分析,溶出実験を通じて以下の明瞭な傾向を確認した。それは大局的に,1)渓流水中の主要陽イオンであるアルカリ・アルカリ土類金属の濃度は,岩石の質および岩石中の濃度に支配される。化学的風化に対して高い抵抗性を示す長石・雲母を主要鉱物とする花崗岩,流紋岩質の溶結凝灰岩の分布域で低く,塩基性火山岩質変成岩,石灰岩を含む堆積岩分布域で高い。また安山岩質火山岩分布域ではこの中間に位置する。この傾向は電気伝導度および(Na+K)/(Ca+Mg)比で明確に図示される。2)特徴的なのがMgであり,(Na+K)/(Ca+Mg)比の低い水系を対象にMg/Ca比をとると,緑色岩・蛇紋岩・高マグネシウム安山岩,局地的に分布する玄武岩の流出域で明らかに高い。3)新期火山活動の認められる北東部(中央降起帯)の水系は,高いSO4^<2->濃度で特徴付けられ,しばしば酸性を呈する。4)本年度購入した分光光度計で,微量成分である溶存SiO2,Fe,Mnなどの定量が可能となり,湧水・温泉水を中心に一部試料について測定を開始した。5)イオンクロマトによって求められる塩基性金属陽イオン量と強酸陰イオン量との差は,酸滴定に基づくpH=4.8アルカリ度(いずれも事実上重炭酸イオン濃度と見なせる)と傾きほぼ1の直線関係にあり,近似的に対応させることができる。しかしこの値は,アルカリ度と一定の系統的な偏差を示し,この原因を微量成分分析の測定で説明することを試みたが,現時点では解明するに至っていない。
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