研究概要 |
1.C_<60>をフッ素化するとC-F共有結合をもったC_<60>F_xが得られる。粉末X線構造解析により,高速で回転した.C-F結合の分だけ殻が厚くなった球状分子C_<60>F_x(xは約46)が面心立方構造をとることを見いだした。また,このC_<60>F_xの単結晶育成にも世界で始めて成功し,そのX線構造解析により,C_<60>F_xの中心からの炭素およびフッ素原子までの距離を定量的に決定した。組成はC_<60>F_<46>,格子定数は17.158(3)Åであった。さらに、各分子のフッ素の数が同じであるC_<60>F_<36>とC_<60>F_<46>はそれぞれ室温で体心立方構造および体心正方構造をとり,後者は353K付近で相転移して面心立方構造になることを明らかにした。 2.XPS,UPS,XANESなどの電子分光法によって,フッ素化にともなってC_<60>の電子構造がどのように変化するかを明らかにした。フッ素が結合することによりπ共役系が縮小し,π,π^*バンドの幅が狭くなり,同時にフッ素の誘起効果によりπ,π^*バンドのエネルギー準位が低下する。 3.C_<60>F_x,C_<70>F_xを正極とし,ポリホスファゼン誘導体にリチウムイオンをドープした高分子固体電解質を用いた固体リチウム電池の定電流放電やボルタンメトリーにより,フッ化フラーレンの電気化学的性質を明らかにした。電池の開回路電圧は4.0Vと高く,90%という高い正極利用率が得られることがわかった。この放電機構はリチウムによるC-F結合の還元であり,最終的にはフッ素の付加していないフラーレンになると考えられる。 4.CH_2Cl_2溶液中でのサイクリックボルタンメトリー測定によって,C_<60>,C_<70>,C_<60>F_x,C_<70>F_x分子の酸化還元挙動を調べ,ボルンの溶媒和モデルおよび溶液中での化学種の電子移動反応の標準電位と電子親和力との関係を用いることによって,C_<60>F_<36>,C_<60>F_<46>およびC_<70>F_<54>の電子親和力をそれぞれ3.48,4.23と4.42eVと見積もった。この結果は,フラーレンのLUMO-π^*準位がフッ素付加数の関数として深くなることを明らかにしたものである。
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