研究概要 |
まず,このクラスで最も高速なワークステーションを導入し,ネットワークに接続した.このワークステーションに量子化学計算プログラムGAMESS(general atomic and molecular electronic structure system)を移植し,申請者独自のルーチンを修正付加することにより計算システムを構築した. このシステムを利用し,まず,典型元素(H〜Ca,Ga〜Sr,In〜Ba,Tl〜Ra,ただし,希ガス元素を除く)のエネルギー的に低い電子状態のMCSCF波動関数と全エネルギーを求めた.そして,以前に決定した有効核電荷を用い,それらの電子状態におけるスピン相互作用の大きさを予測した.これらの結果を実験結果と比較検討した.アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素を除けば,実験結果とかなりよい一致を示し,以前に決定した有効核電荷が有用であることが明らかになった.これらの結果は次年度中に論文発表する予定である. 次に,遷移金属元素のエネルギー的に低い電子状態のMCSCF波動関数と全エネルギーを求めた.取り扱った遷移金属元素は,Sc〜Zn,Y〜Cd,La,Hf〜Hgの30個である.いずれの元素においても,多数の電子状態がエネルギー的に近接して存在するため,これらの電子状態を適切な信頼度で求めるために多くの時間を要した.さらに,これらの電子状態のスピン軌道相互作用による分裂を一電子近似のもとで計算した.計算に含めた電子状態が多数であるため,我々のプログラムでは比較的長い計算時間を要した.従って,我々のプログラムを改善し,高速化する必要があると思われる. 以上の結果を実験によって求められている原子スペクトル分裂と比較検討することにより,二電子部分の寄与を見積り,現在.各遷移金属元素の有効核電荷を決定している.次年度にこれらの結果をまとめ,論文発表する予定である.さらに,それらの結果を利用し,Ti,Ru,Os,Wなどの水酸化化合物の化学反応の研究を進めていく予定である. 以上の研究と並行して,高スピン化合物の設計を目的としたジラジカル系の化学反応,シリコン窒化膜成長過程,共役炭化水素における擬ヤーンテラー効果に関する研究も行い,論文投稿中である.
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