研究概要 |
有用な生理活性を有する有機化合物には、光学活性を有し、かつその骨格に環状構造を有するものが数多く存在する。それらの化合物の合成、構造活性相関の探究、更に新規医薬、農薬の創製のためには任意の立体化学を有する光学活性環状化合物の合成法の確立が必要不可欠である。 本研究では、両鏡像体共に入手容易な酒石酸エステルより調製される金属ジアルコキシドが、付加環化反応の優れた不斉触媒であることを明らかにし、種々の形式の付加環化反応に対応できる触媒的不斉合成反応系の確立し、さらにその反応を利用し、環状構造を骨格に含む光学活性生理活性化合物の合成に応用することを行なった。 アリルアルコールにジエチル亜鉛、(R,R)-酒石酸ジエチル、ジエチル亜鉛、ジヨードメタンを順次作用させると、アリルアルコール部分とヨードメチル基とがそれぞれ酒石酸アルコキシドの異なる亜鉛に結合した二核キラル中間体が生成し、引き続くSimmons-Smith反応が立体選択的に進行し、光学活性シクロプロパンが得られることを見出した。また、ヒドロキシモイルクロリドより反応系内でニトリルオキシドを発生させる手法により、アリルアルコール部分とニトリルオキシドが二つの亜鉛に結合および配位した二核キラル中間体を生成することができ、1,3-双極子付加環化反応がエナンチオ選択的に進行し、合成中間体として有用な光学活性2-イソオキサゾリンを高立体選択的に得ることができた。また、1,4-ジオキサンのようなエーテル類を添加することにより、ニトリルオキシドの1,3-双極子付加環化反応の不斉触媒化を世界で初めて実現した。更にこの二核キラル反応場において電子吸引基を有するニトロンを反応させることにより、同様の不斉1,3-双極子付加環化反応を高立体選択的に進行させることにも成功した。
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