研究概要 |
シス-エテン-1,2-ジチオレートジアニオンのヨウ素酸化によりシクロオクター1,5-ジエンのsp^3炭素を硫黄原子で置き換えたテトラチオシン(1,2,5,6-テトラチアシクロオクター3,7-ジエン)及びその四量体(1,2,5,6,9,10,13,14-オクタチアシクロヘキサデカ-3,7,11,15-テトラエン)を得ることができた。この四量体化合物はその骨格も新規なものであり、またテトラチオシンは今まで得られているものの中で最も単純な置換基すなわち水素原子を有し、特別な置換基による安定化が無くても単離可能であることが初めて明らかとなった。得られた二種の生成物の結晶構造は、テトラチオシンはtwist構造、四量体は新しい配位子としての可能性を示唆するかご型構造であることがX線結晶構造解析により明らかになった。またテトラチオシンの種々のコンホメーションをab initio分子軌道計算によって行ない、化合物の構造特性を明らかにした。その結果、テトラチオシンはその炭素類似体であるシクロオクター1,5-ジエンとはその安定構造が異なることが明らかになった。テトラチオシンの基本的な性質を調べるために、熱及び光照射による挙動を検討したところ、テトラチオシンは加熱あるいは塩基存在下室温で、環拡大した二量化生成物(四量体)を高収率で与え、光照射によっては選択的に硫黄の[1,3]シグマトロピック転移が進行し、ビシクロ体及び黄色ゴム状のポリマーが得られることが明らかになった。
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