研究概要 |
ガラスを熱処理するとガラスマトリックス中にナノメートルサイズの結晶微粒子が析出し,結晶化ガラス(ガラスセラミックス)となる.このとき電気伝導度や磁性,光透過性などが顕著に変化する.その際の構造変化のメカニズムを解明し,さらに構造と機能性の相関を明らかにする目的で幾つかのニューガラスのメスバウアー,赤外吸収,磁化率,X線回折およびDTAを行い,以下の結論を得た。 1.半導性バナジン酸塩ガラス(25K_2O・65V_2O_5・10Fe_2O_3)を結晶化温度(Tc)付近で10〜30分間熱処理すると,構造緩和により電気伝導度が10^<-8>S・cm^<-1>のオーダーから10^<-4>S・cm^<-1>のオーダーまで上昇する.熱処理時間が長くなると絶縁体の結晶相が析出するため,電気伝導度は次第に低下する. 2.アルミン酸塩ガラス(60CaO・27Al_2O_3・13Fe_2O_3および60CaO・10BaO・17Al_2O_3・13Fe_2O_3)を熱処理すると反強磁性のフェライト微粒子(Ca_2Fe_2O_5)が析出するため,赤外透過率と磁化率が減少する. 3.これらのニューガラスの結晶化に要する活性化エネルギーは骨格を構築するユニットの結合エネルギーに等しく,Ca-OやAl-O結合の切断により結晶化が始まると考えられる.またFeO_4が骨格を構築する場合はFe-O結合が優先的に切断され,鉄を含まないガラスよりも活性化エネルギーが小さくなる. 4.ガラス転移温度(Tg)がガラス骨格のひずみの大きさに比例すると,"Tg-Δ則"(1990年に西田が発見)を検証するため種々のケイ酸塩ガラスをTg付近で適度に熱処理してDTAとメスバウアースペクトルを測定すると,構造緩和により骨格を構築するSiO_4およびFeO_4四面体のひずみが小さくなり,予想どおりTgが低下する. これまで"Tg-Δ則"の成立が確認されている無機ガラス中の鉄濃度はせいぜい数モル%程度であったが,高濃度(〜30mol%)の酸化鉄を有する「フェライトガラス」でも"Tg-Δ則"が成立する.
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