研究概要 |
黒鉛炉原子吸光法は水中の痕跡元素の定量法として最も広く用いられている方法の一つであるが,水道水中のカドミウムや鉛のように低濃度で存在する痕跡元素を直積定量するためには感度は十分ではない。従来,痕跡定量分析においては,様々な前濃縮法が併用されてきた。前濃縮法とそれに引き続き行われる検出法との適合性は分析結果の精度及び正確さを左右する重要な因子である。 本研究の目的は,黒鉛炉原子吸光法の前濃縮に“水になじむ有機相"として微細なイオン交換樹脂を用い,目的痕跡元素を錯体として樹脂相に抽出し,樹脂をメンブランフィルターに捕集した後,再び少量の溶液に懸濁させ,得られる樹脂懸濁液を黒鉛炉原子吸光法で定量する方法を確立することである。イオン交換樹脂は疎水性の母体に親水性のイオン交換基を化学結合させた樹脂であり,イオン交換に加えて,疎水性相互作用により,電荷を持たない錯体の迅速な抽出にも有効である。カドミウムや鉛のジエチルジチオカルバミン酸アンモニウム(以下APDCと略す)錯体が,少量の微細なイオン交換樹脂に効果的に抽出できることを見出し,黒鉛炉原子吸光法で定量する方法を確立した。水道水150mlからカドミウム及び鉛をAPDC錯体として同時に抽出し,イオン交換樹脂をメンブランフィルターに捕集した後,樹脂を保持したフィルターを10mlビーカーに移し,100ppmのパラジウム(II)を含む0.1M塩酸1.0mlを加え,1分間超音波照射して樹脂懸濁液を調整し,20μlを黒鉛炉に導入して鉛及びカドミウムを定量した。水道水からのカドミウムと鉛の回収率は定量的であり,検出限界はそれぞれ,0.17及び5.7ppt(ng/l)となった。実験室に供給されている水道水中のカドミウムと鉛を10日間連続して測定した結果,それぞれの濃度は,6.52±0.75及び136±12pptであった。
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