研究概要 |
ニンジン変異培養細胞と正常培養細胞のDNAを転移因子(Tdc 1)の塩基配列をプライマーとして用いてPCRにより転移・挿入の生じた近傍の遺伝子を増幅・検出するというGenomic Differential Display法によって、これらの変異を引き起こしていると思われる遺伝子断片を単離し,それらに対するcDNAを得た。これらcDNAについて、塩基配列の決定、構造解析をおこなったところ,そのcDNAの1つにおいてreticuline oxidase precursor(California poppy)および6-hydroxy-D-nicotine oxidaseと高い相同性が得られた。これらはともにalkaloid合成に関わる酵素である。特にreticuline oxidaseは苦味整腸剤として用いられているオウレン末の主要成分であるberberine を合成する代謝系のkey enzymeとして重要であることが知られている。ニンジンにはberberine、nicotineがないことから、今回の未知遺伝子の単離においてこのcDNAは、alkaloid合成に関与する未報告の新規二次代謝合成酵素遺伝子の単離に成功した可能性が高いと思われる。一方、別のcDNAからはcytochrome P-450系酵素との高い相同性が得られた。植物において、cytochrome P-450系酵素のいくつかは二次代謝系に関わることが知られており,Northern blotの結果などからここで得られたcytochrome P-450系酵素もその1つである可能性が推測された。ここで得られた遺伝子の酵素活性,およびどのような代謝系に関わっているのかを明らかにするために、今後これらのcDNAを発現性ベクターに組み込み,ニンジンに導入し、どのような二次代謝産物の生産に変化が見られるか調べ,その酵素活性を調べる必要があると考えられた。
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