研究概要 |
本研究はアメリカザリガニ尾扇肢運動を制御する局所回路神経間の抑制性シナプス伝達機構を細胞レベルで明らかにすることを目的に、GABAを抑制性伝達物質の候補に、GABA作動性ニューロンの同定、後シナプスニューロンのGABA受容体の性質について、生理学的・薬理学的・免疫組織化学的に解析した。 (1)側抑制を引き起こすノンスパイキング介在ニューロンLDS、PL,ALという2グループに分類できる片側型のノンスパイキング介在ニューロンに細胞内染色を施し、その標本をGABA抗体を用いて同時ラベル化したところ、LDS,すべてのPLタイプのノンスパイキング介在ニューロンの細胞体がGABA陽性反応を示した。一方,ALタイプのノンスパイキング介在ニューロンではその約半数、特に細胞体が神経節の前側方部に位置する3rdサブタイプのものはGABA反応性を示さなかった。 (2)感覚ニューロンへの連続電気刺激により、反対側の上行性介在ニューロンの多くは抑制性の応答を示す。GABAを中枢内へ圧注微量投与すると、感覚刺激時と同様の膜過分極が多くの上行性介在ニューロンに引き起こせた。GABA注入時に感覚ニューロンに電気刺激を与えても、さらなる応答は認められず、これは脱感作によるものと考えられ、GABAが側抑制の伝達物質であることが強く示唆された。 (3)ノンスパイキング介在ニューロンは漸次的にその膜電位変化に応じて尾扇肢運動ニューロンを過分極する。運動ニューロンの過分極は3nA程の過分極性電流注入で逆転し、GABAの中枢内微量投与によっても同様の逆転電位がみられる過分極性応答が観察された。 (4)上行性介在ニューロンの抑制性応答には、塩素イオンの拮抗薬であるピクロトキシンによって阻害されるタイプのものと、そうでないものの2タイプがあることが確認された。つまり、介在ニューロンによって2タイプの異なったGABA受容体を持つことが明らかとなり、感覚刺激に対する抑制性応答の時間経過が異なっていることが判明した。
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