研究概要 |
本研究の目的は,甲殻類における神経原性心臓の心臓ペースメーカーとその神経性液性調節機構の,個体発生ならびに系統発生における発達の過程を明らかにすることである。研究は主として組織学的ならびに電気生理学的方法を用いて行った。主な研究成果は以下の通りである。1)等脚類フナムシの飼育方法を確立し,フナムシ発生段階における心臓の形成過程を記載した。その結果を基に,フナムシの心臓ペースメーカーが幼体発生の過程で心筋から心臓神経節に転移し,心臓拍動が筋原性から神経原性に転換することを明らかにした。さらに生体における神経原性心臓拍動機構が,これまで主として十脚類の研究から知られていた神経原性心臓拍動機構とは異なることを明らかにした。2)フナムシの中枢神経系において一対の心臓抑制性および2対の心臓促進性の神経細胞を同定し,それらが心臓神経筋および心筋の両者を支配することを,形態学的および生理学的に明らかにした。さらに発生過程における心臓ペースメーカーの転移に伴う,神経調節機構の変化の過程を明らかにした。3)発生過程における心臓ペースメーカーの転移に伴う,液性因子とくに生体アミン類の心臓調節機構の変化の過程を明らかにした。4)原始的な甲殻類である鰓脚類のカブトエビの心臓には心臓神経筋は認められず,心臓拍動は生体においても筋原性である事を明らかにし,甲殻類における神経原性心臓の存在を初めて明確に示した。以上の成果について5編の論文を専門誌に投稿し,掲載された。さらにそのほかの成果についての論文を,研究分担者と準備中である。
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