研究概要 |
真核生物の鞭毛・繊毛の多くは,「9+2」構造,即ち一対の中心微小管を9本の周辺微小管が取り巻いた構造をしている.各々の周辺微小管は,外腕・内腕・スポ-クを持ち,隣接する微小管とネクシンと呼ばれる構造でつながれている.鞭毛運動は,腕が隣接する周辺微小管を滑らせる滑り運動を原動力として引き起こされる.9本すべての微小管で滑りが同時に起こったのでは鞭毛運動の基礎となる屈曲の形成と伝播は起こらない.鞭毛内部では滑りの位置と量とを制御する機構があると考えられる.この制御には,腕,腕以外の構造とくにスポ-クなどの関与が示唆されている.私達の研究などから,滑りの位置と量の制御には,中心小管/スポ-ク系がかかわることが予想されているが,中心小管とスポ-クの両者が重要なのか,またそれらによってどのように滑りが制御されるのかは不明である.本研究は,軸糸構成要素を部分的に取り除いた鞭毛における波形解析,及び滑りに与えるCa^<2+>の効果を手掛かりに,滑りの制御にかかわる構造を特定し,その構造の機能の解明に寄与することを目指した.クラミドモナスの非運動性突然変異株の鞭毛を用いて,微小操作法により屈曲の誘導を試み,滑りの制御に関与する構造について検討した.突然変異株としては,中心小管を欠くもの,ダイニン外腕を欠くもの,内腕の一部を欠くもの,およびこれらの二重変異株を用いた.その結果,反応は,周期的運動が誘導されたもの,屈曲の伝播だけが生じたもの,反応しなかったもの,に大別された.これらの反応と欠失構造との関係を検討したところ,外腕と内腕の一部(分子種f)がある種の機能を共有している可能性があること,内腕は,中心小管/スポ-ク系によって何らかの制御を受けているらしいこと,スポ-クと中心小管の両者が波形の決定に重要であることが示唆された.また,ウニ精子鞭毛を用いたCa^<2+>の効果の解析から,Ca^<2+>は鞭毛内である特定の部位のダイニンの滑りを抑制するように働き,この抑制部位の決定には中心小管/スポ-ク系がかかわる可能性が示唆された.
|