研究概要 |
イリオモテヤマネコおよびツシマヤマネコについて,集団内の遺伝的多様性を評価することを試みた.9つのマイクロサテライト座位の対立遺伝子型を遺伝子増幅(PCR)法により検出・決定し,各対立遺伝子の頻度に基づいて集団の遺伝子多様度(ヘテロ接合度)を算出した.その結果,イリオモテヤマネコ集団およびツシマヤマネコ集団では対立遺伝子の種類数と頻度が少なく,特にイリオモテヤマネコ集団ではほとんど多型がみられなかった.それに対し,これらの日本産ヤマネコと遺伝的に近縁なアジア大陸産ベンガルヤマネコ集団内では遺伝子多様度が高かった.さらに,ミトコンドリアDNAの中でも進化速度の速いDループ領域について塩基配列を解析したところ,イリオモテヤマネコ集団内での個体差は検出されなかった.このようなイリオモテヤマネコ集団およびツシマヤマネコ集団における遺伝的多様性の低下は,彼らが西表島・対馬に地理的に隔離(分岐年代はそれぞれ今から約20万年,10万年前であることを昨年までに明らかにした)された後の近交化および遺伝的浮動によるものと考えられている.イリオモテヤマネコにおける極度の多様性の低下は,地理的隔離後の年月がより長いことによるものかもしれない.両島において今後起こり得る自然的・人為的環境変化および病原体の侵入に対して,集団が適応できるかどうかが懸念される.本研究の結果は,今後の両ヤマネコ集団の遺伝的多様性評価を継続すると共に,現在の島の自然環境を十分に保全していく重要性を示唆している.
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