研究概要 |
平成8年〜9年度に表記の課題で,次のことを明らかにした. 1.「ハラボソバチにおける巣材の結合」:社会性スズメバチ科中,最も原始的なハラボソバチ亜科では,巣材を結合する糊剤の分泌能力が未発達とされてきた.そこで,オオハラボソバチの巣の元素組織を調べ,口内分泌物と見られる成分を微量検出し,本亜科においても繊維結合材の分泌腺が萌芽的に発達していることを実証した(日本昆虫学会誌). 「アシナガバチの巣作りにおける口内分泌物の使用,特に外来蛋白質資源のコロニー内での分配」:フタモンアシナガバチの創設メスが建築した巣から,基本素材の植物繊維を結合する口内分泌物を多量検出した.この物質は外で採集した動物性の餌に由来するが,それによって軽く強靭な壁を作る技術が確立した:窒素含有量から,巣自体に消費される蛋白質源が巣に搬入される全蛋白量の10数%を占め,その採集のために相当の労働力を必要とすることを初めて指摘した(H9年11月に,第3回アジア・太平洋昆虫学会議(於台湾)で口頭発表,論文は"Ethology,Ecology & Evolution"に受理).なお,口内分泌物から24種のアミノ酸を検出し,そのうちグリシン,プロリン,アラニン,セリン,バリンの5種が主要な成分であることが判明したが,その組成の詳細や生理生態学的意義は今後に残された課題である. 3.「緯度による巣建築の比較,特に機能外被との関連」:寒冷地の北海道に生息するトガリフタモンアシナガバチは,長い育児室と周辺部の空室による付加的構造=機能外被を作る.その巣のサイズや巣材組成を暖地のフタモンアシナガのそれと比べて,創設メスの巣建築への投資量を比較した.寒冷地の創設メスの方が2倍以上の労働投資を行っていることが判明した.それは巣の保温効果を高めるためと推測された("Insectes Sociaux"に投稿中).
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