研究概要 |
コケ植物の胞子体の形態および胞子体組織でおこる胞子形成機構に見られる多様性と系統群との関連を追及した. 1. コケ植物で見られる減数分裂の様式は,色素体の数と隔壁形成様式の点から,5つの基本型が認められ,系統群との強い関連のあることが示唆された. (1) 胞子母細胞は減数分裂直前に色素体を1個もち,分裂後,色素体を1個ずつもつ正四面体型胞子四分子を形成する群(蘚類とツノゴケ類),(2)胞子母細胞は分裂時に4葉に著しくくびれ,複数の色素体をもった状態で減数分裂し,複数の色素体を持つ正四面体型胞子四分子を形成する群(苔類のウロコゴケ亜網),(3)胞子母細胞は分裂時に4葉にくびれず,複数の色素体を持った状態で減数分裂し,四面体型の胞子四分子を形成する群(ゼニゴケ類),(4)胞子母細胞は分裂時に4葉にくびれず,複数の色素体を持った状態で減数分裂し,双胴側型の胞子四分子を形成する群(ジャゴケ),そして,(5)胞子母細胞は分裂時に4葉にくびれず,複数の色素体を持った状態で減数分裂し,線型の胞子四分子を形成する群(ヒメジャゴケ). 2. 蘇類の頂生類シッポゴケ科のチヂミバコブゴケ属の胞子形成過程を,光顕ならびに電顕レベルで明らかにした.ここでは,(1)胞原組織は1細胞層として発達し,構成するここの細胞は3回の分裂で8個の胞子母細胞を生み出すことを明らかにした.これによって,1個の胞原細胞組織の細胞から32個の胞子が生産されることをつきとめた.また,(2)胞子形成の過程に見られるじゅうたん組織の研究を行なった結果,コケ植物に関してはじめてアメーバ型じゅうたん組織の存在を明らかにした.この型は従来は被子植物のキク科だけに知られる得意なものであり,陸上植物の系統を考える上で注目すべき形態であると意義付けている.
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