研究概要 |
南極大陸周辺海域に局所的に分布するコオリウオ科魚類はヘモグロビを欠くという極めて珍しい特徴を備えるグループで,南極海のような寒冷環境でのみ進化・発展できうるものと考えられる。そこで,本科魚類の特殊な性質が幼形成熟現象によって成立したものと仮定し,検討を進めた結果,下記のような結果を得た。 1.仔稚魚標本を硬骨軟骨二重染色法によって染色し,その尾鰭骨格の変化を解析したが,仔稚魚の段階で、同じノトセニア亜目魚類の別の科グループにみられる形質より特化した状態を示しており,幼形成熟を直接支持するような結果は得られなかった。 2.コオリウオ科魚類を含むノトセニア亜目魚類の顎の構造と胃内容物組成との関連を解析した結果,コオリウオ科魚類はより高次の栄養段階の生物を捕食するのに特化した類群であることが明らかとなった。また,膨大な資源量を誇るナンキョクオキアミの存在が,ヘモグロビンの欠失という一見不利とも思える形質をもつコオリウオ科魚類の反映を可能にしたものと推察された。 3.コオリウオ科魚類は他のノトセニア亜目魚類と比較して,大型の頭部を有することから,その頭部に発達する頭部感覚管系の構造を解析した。感覚管系の構造と骨格系の比較検討結果とあわせて検討した結果,コオリウオ科11属はChampsocephalus,Pagetopsis,Dacodraco,Channichthys,Chaenocephalus,Chionodracoの6グループに再編成されるべきであると結論された。 4.上記PagetopsisグループとChaenocephalusグループには,眼下骨・下鰓骨・腹鰭の形状において,幼形成熟現象が原因と推察される形態変化が確認され,環境が均質な南極海における種分化の要因として,幼形成熟などの異時性が重要な役割を果たしていることが示唆された。
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