古代人骨の力学的解析を行うことを目的として、ここでは縄文時代人大腿骨連続断面の測定を行った。縄文時代成人大腿骨男18、女14、計32個体分を資料とした。資料は東京大学総合研究博物館人類先史研究部門所蔵のうち、全体的な計測に耐えるものを選んだ。今回は地域差の問題を除去するために関東地方発掘資料に限った。時代は縄文中期以降であり、後期のものが多数を占める。大腿骨最大長の近位側から30、40、50、60、70%の各横断形を求め断面形状から力学的特徴を抽出した。貴重資料の切断を避けるために、髄空の形状は厳密に角度を定めて前後、左右、これらと45度の3方向から撮ったX線写真より周期スプライン法により推定した。この方法の誤差について検討を加えた。外形は型どりを行った。比較には現代人および港川人の自己既存資料を用いた。 縄文時代人大腿骨は現代人と比べて前後方向に丈夫であるとの特徴を持つ。断面の主軸の向きが前後を向くこと、この長軸方向と短軸方向との主断面二次モーメントの比が大きいことによってこのことが示された。このことは男性大腿骨中央部については外観からも粗線の発達によって指摘されてきている。女性については外観からは明確な指摘がなかったが、断面形状より力学的には女性も前後方向に丈夫であることを指摘してきている。連続断面をとることにより、縄文時代人は男女とも骨体の全面、少なくとも30-70%長さに渡り、この前後方向へ丈夫であるという特徴を持つことがわかった。現代人では骨端に近づくと左右方向の丈夫さが増すことが普通である。この特徴は強度に発達した屈伸筋群の働きを伴うものであると考えられる。港川人においてはこのような縄文人的特徴は少なく、筋の発達の違いが考えられる。
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