研究概要 |
動物種に関係なく存在すると考えられる第2乳臼歯の歯冠における固有の形態的特徴,いわゆる「第4乳臼歯の顔」を抽出することを目的として,ヒトと大型類人猿(ゴリラ,オラウータン,チンパンジー)の第4乳臼歯歯冠の基本形態を第1大臼歯と比較した。 材料は京都大学霊長類研究所,日本モンキーセンター,イギリス自然史博物館に保管されている類人猿の骨格標本より印象して作製した石膏模型,昭和大学歯学部に保管されている日本人男性の石膏模型である。肉眼観察およびノギスによる計測(歯冠近遠心径および頬舌径,トリゴニッドおよびタロニッドの近遠心径および頬舌径)を行った。画像解析の方法は以下の通りである。デジタルカメラ(Canon : Power Shot 600)で撮影した咬合面観の画像をTWINインターフェイス経由(Adobe Systems Inc.: PhotoShop ver 3.0.5J)でパソコンに取り込んだ。ディスプレイ上でこの画像をトレースし(Deneba System Inc.: Canvas ver 3.5J),各臼歯の歯冠外形を作図した。作図した第4乳臼歯の外形を第1大臼歯と近遠心径が同じになるまで拡大して,両者を重ね合わせて比較した。 上・下顎ともに第4乳臼歯は第1大臼歯と比べて頬舌的な咬頭頂間距離が短縮していた。上顎では歯冠指数(近遠心径と頬舌径の比率)は両者の間で違いがみられなかった。上顎第4乳臼歯は第1大臼歯に比べて舌側2咬頭の発達は悪いが,メタコーンは発達が良かった。下顎では第4乳臼歯は頬舌的に圧平されていた。以上の結果は第4乳臼歯の歯冠が第1大臼歯と比べて原始的な形質を保持していることと,第1大臼歯ほどには臼歯化していないことに関係していた。
|