研究概要 |
これまで100eV前後の低エネルギー損失の内殻励起電子には原子サイズの局在性はないと考えられていた。しかし、非弾性散乱電子の局在性はその散乱波の横方向の広がりによってのみ決定されるものである。そこで本研究においては、低エネルギー損失をした内殻励起電子でも原子サイズの局在性をもつことを検証すると共に、この電子を用いることによって通常の高分解能電子顕微鏡像に近い高い解像度をもつ元素分布像を得る手法の開発を目的として研究を実施した。まず,水素様原子モデルに光学的ポテンシャルフィッテイング補正を加える方法で,内殻励起損失電子の散乱断面積を求めるプログラムを作製し,更にこれによって求められた値を,電子回折動力学理論と部分的干渉性を考慮した結像理論に適用し,所要のエネルギー損失を起こした内殻励起電子による高分解能電子顕微鏡像コントラストを求める計算機プログラムを開発した。また,非弾性散乱電子だけによる高分解能電子顕微鏡観察像のランダム量子ノイズを除去するためにウェーブレット変換法を用いた新しい画像処理法を開発した。ついで,グラファイト単結晶薄膜上にアルミニウム,金等の原子群をのせた試料を作製し、弾性散乱電子による電子顕微鏡観察及び,エネルギー選択電子顕微鏡像観察を行った。最後に,内殻励起損失電子による像を今回開発されたプログラムを用いてシミュレーション・解析した結果,内殻励起損失電子は直径約0.2nm程度の範囲にのみ広がることがわかった。これにより,これまでは5-10nm程度の広がりを持つため,原子レベルの解像は不可能と考えられていた低エネルギー損失の内殻励起損損失電子においても,弾性散乱電子によるときと同様,原子レベルの解像度をもつ高分解能像の観察が保証されることを示せたことは大変大きな収穫であった。
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