研究概要 |
溶射法は近年,表面改質技術の一環として工業分野各方面への応用が積極的に試みられている.中でもWCなどの金属サ-メット硬質皮膜は,一般的に耐摩耗性やしゅう動特性などトライボロジー特性に優れており,各種機械要素接触面への応用が期待されている.本研究では,高速フレーム溶射法(HVOF法)により厚さ40μmおよび90μmのWC-Cr-Niサ-メット皮膜をコーティングしたS45C焼準材,調質材およびSCM415浸炭焼入れ材のローラ試験片を浸炭焼入れ鋼ローラと組合せ,潤滑条件下で純転がりまたは転がり-滑り接触させ,はく離や摩耗の発生状況を調べるとともに皮膜を含む接触面下での応力・変形状態の理論解析を行い,溶射皮膜の耐久性に及ぼす皮膜厚さや母材硬さ,接線力の影響などについて検討した.その結果,次のような知見を得た. 1.WCサ-メット溶射皮膜の耐久性は,母材硬度により顕著な差異が認められ,母材硬度が低い焼準材(Hv≒200)や調質材(Hv≒320)の場合,浸炭焼入れ材(Hv≒760)に比べ,短寿命である. 2.純転がり条件下において溶射ローラは,かなり長寿命であった.また,転がり-滑り条件下において,溶射ローラを低速側(被動側)に配置した場合,はく離が発生しやすく,一方,高速側(駆動側)に配置した場合,はく離の発生が抑制された. 3.皮膜厚さが厚くなるに従い,はく離は発生しにくく長寿命となっており,母材硬度が低いとき,より明りょうな影響が見られた。 4.母材硬度が高い浸炭焼入れ材の場合,発生したはく離は皮膜内でとどまっていたが,母材硬度が低い焼準材や調質材では,皮膜と母材の境界面に沿って発生した. 5.接触面下の弾塑性解析の結果,母材硬度によるはく離の発生状況の差異に関して母材バルクの塑性変形の影響が示唆された.
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