研究概要 |
(1)実験的研究:比較的に小さな融解系(氷板高さH=20mm,液層横幅L=5mm,10mm)と比較的に大きな融解系(氷板高さH=10mm,液層横幅L=15mm,25mm,50mm)で垂直氷板の融解実験を行った.最初,氷板と水溶液との温度が共に-5℃の同じ場合について実験を行った結果,氷板は濃度差を駆動力として融解系の温度降下を伴いながら自発的に融解した.周囲から熱を加えないにもかかわらず融解時間が10分で約1kg/m^2もの融解量が得られた.次に水溶液の温度が氷板温度(-5℃)よりも高く0℃にした場合には,約40%融解量が増加した.(2)数値解析:数値解析のモデルは実験モデルとできるだけ類似させるため,実験容器のアクリル板や断熱材の熱伝導も解析領域に含めた.氷板の初期温度は-5℃として,液層の初期温度を-5℃,-3℃,0℃,5℃の4種類について解析を行った.水溶液の初期濃度は20wt%とした.数値解析はSIMPLER法を用いてくり返し計算を行って収束解を求めた.融解面近傍で極めて薄い濃度境界層が現れるので,解析の精度を上げるため融解面に接しているメッシュ間隔を0.1mmに設定した.(3)融解挙動:氷板の融解による融解系の濃度拡散による水溶液の密度減少のため浮力が働き,融解面近傍で0.3mm程度の大変薄い濃度境界層が現れ,融解液は上昇し,これが液層上部に広がって大変流れの遅い濃度成層領域が形成された.一方,濃度境界層の外側では融解による潜熱吸収による温度降下のため,水溶液の密度が増大して反時計回りの大きな強い渦が現れた.この領域の水溶液は融解液に汚染されず,初期の濃度を保っている.すなわち,濃度非汚染領域が形成され,これが時間の経過につれて次第に小さくなる挙動が観察された.水溶液の温度が高くなるにつて,水溶液のもつ熱容量が増すため氷板の温度降下が小さくなって融解量が増す傾向が実験と数値解析結果から認められた.これは水溶液の温度が高くなるにつれて融解面の温度も高くなり,結果として融解面の平衡濃度と周囲の濃度との差が大きい状態が持続されるからである.本数値解析結果は液層内の対流や融解速度に関して実験の傾向を比較的に良く予測できることが認められ,これまで定性的な議論にとどまっていた氷板の温度・濃度複合融解を定量的に数値解析できることが認められたと思われる.
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