研究概要 |
ヒートパイプの新たな作動媒体として,現在使用が認められている代替フロンなどの有機物に安全性や経済牲のほか潜熱や熱伝導率など熱的性質にも優れた水を付加した二成分不溶性混合物は,静的特性として熱物性値の向上が期待される。しかし,両成分は液相状態で互いに混ざり合わず,表面張力や密度,沸点などに差があり,共沸点を有する相平衡特性を示すことから,冷却部における有機物の膜状と水の滴状からなる複合凝縮や加熱部における上下二液成層からの沸騰・蒸発など,その現象は極めて複雑であり,動的特性は未だ明らかにされていない。 以上の観点から本研究は,加熱部における二成分不溶性溶液の沸騰・蒸発機構,および混合蒸気の輸送機構,冷却部における二成分蒸気の凝縮機構,凝縮液の加熱部への還流機構を相平衡特性と関連づけて明らかにすることを目的に,パ-フロロカーボンC_6F_<14>(PFC)と水を供試した実験を行った。その結果,加熱部下層で発生した蒸気泡はPFC単成分から液-液界面で共沸状態へ移行し,さらに水中を上昇する間に場の温度と圧力により定まる平衡蒸気組成へと変化していくため,発生する混合蒸気組成は単に二液の体積混合割合ではなく,上層液の深さや加熱条件に依存することが明らかにされた。冷却部の伝熱性能はこの蒸気組成に大きく支配され,凝縮の進行とともに主流と壁面の温度がほぼ一致する不凝縮領域が冷却部上方に現れ,それは輸送熱量の増加に伴い次第に減少し有効凝縮面長さが増加していき,二成分不溶性混合蒸気の凝縮特有の現象として冷却面上に形成される有機物の膜状と水の滴状からなる複合凝縮挙動と気相中に形成される拡散抵抗層の存在の影響が相まって,結果的に熱輸送特性として優れた定温度特性や定圧特性を示すことが明らかにされた。 以上,二成分不溶性混合媒体を用いたヒートパイプの最適運転条件および装置設計において重要となる基礎的知見が示された。
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