研究概要 |
本研究の目的は,ダンピング制御におけるアドミタンス行列要素の値を,学習する手法を確立することである.部品の組付作業において有効な力制御則として,ダンピング制御が提案されている.ダンピング制御則では,運動の更新則は,アドミタンス行列によって定められる.したがって,組付作業に対してダンピング制御則を適用するためには,アドミタンス行列要素の値を適切に決定することが必要となる.しかしながら,与えられた作業ごとに,アドミタンス行列要素を求めることは容易ではない.そこで,力の安定性に着目し,作業の試行を繰り返すことにより,アドミタンス行列要素の値を学習する手法を提案した. ダンピング制御則の目的の一つは,物体に作用する過大な力を防ぐことにある.アドミタンス行列要素の大きさは,作業実行時に物体に作用する抗力に強く影響する.すなわち,行列要素の値が小さい場合,位置決め誤差が吸収されず,過大な抗力を生じる.行列要素の値が大きい場合には,系が不安定になり,結果として発散的な抗力が作用することがある.逆に,適切な行列要素に対しては,安定な抗力が作用する.したがって,作業時の抗力の安定性を評価することにより,過大な力を防ぐように,アドミタンス行列要素の値を決定することができる.実作業を通して得られる評価関数を,非線形計画法の技法を用いて最適化することにより,適切なアドミタンス行列要素の値を求める手法を提案した.提案した手法を実装し,計算機シミュレーションと産業用マニピュレータを用いた実験を行った.その結果,次のことがわかった.1)シミュレーションと最適化技法を用いたアドミタンス行列要素の学習は,安定な作業を実現する上で有効である.2)実環境における試行の繰り返しにより,さらに適切な行列要素の値を求めることができる.今後の課題は,アドミタンス行列要素に加えて,指令速度や案内経路を対象とした学習である.
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