研究概要 |
平成8年度は下記に示すような実験を行い,次のような結果および知見を得た. (1)精密シリンダの試作:現在一般に使用されているシリンジの材質は,ガラスや樹脂製である.しかし,ガラス製や樹脂製シリンダは加工精度に難があるためシリンダ内壁の面粗さは均一ではなく,吐出精度の正確さが要求される精密シリンジには向かない.特に今回,筆者が開発した「圧電インパクト駆動機構」をピストンの駆動に用いているので,特に精密な内壁加工が要求される.そこで,内面をラップ仕上げなどでRAの数値をRA=0,05μm以下の真鍮製シリンダを試作した.摩擦面を面精度をあげて均一化することにより,安定した吐出が可能になった.内径1,6mmのノズルを用いての吐出実験では,平均0,04mgの安定した吐出を確認した. (2)精密マイクロインジェクタの試作:生命工学の分野において,細胞内に精子やDNAを注入するような作業がある.現在,ほとんどの研究者は注射器とネジを組み合わせた手動インジェクタを使用しているので,微細な吐出には熟練を要している. 今回,細胞操作用マイクロマニピュレータに圧電インパクト駆動インジェクタを組み込み,精子のインジェクションを試みた.細胞内インジェクションは手元スイッチで遠隔操作が可能になり手動インジェクタより精度の高いインジェクションを行うことができた.しかし,今後の課題として,粘度の高い溶液中のDNAなどを吸引し細胞内へ吐出する作業があるが,今回試作したインジェクタは高粘度溶液のインジェクションには不適であった.よって,高粘度溶液に適した改善(摩擦機構の改善,ロック機構の追加など)を行う必要があることが判明した. (3)空圧式インジェクタの試作:圧縮空気(2〜3kg/cm^2)でピストンをインパクトしながら駆動する空圧インパクトインジェクタを試作した.圧電インパクトインジェクタと比べるとピストンの駆動力は強いが微小量域でのコントロールが難しいという問題があった. 平成8年度の研究を振り返ってみて,圧電インパクト駆動インジェクタは,内面精度の良いシリンダと組み合わせることで,精密吐出が可能であることが確認できた.また,細胞操作用マイクロマニピュレータと組み合わせることで,DNAや精子のインジェクションの自動化の可能性を探求することかできた.今後は本成果を用いて全自動マイクロインジェクタを試作する.
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