本学衛星通信研究施設内のCS系実験局において、過去6年間にわたってほぼ連続的に秒単位で記録されたKa帯通信衛星CS-3ビ-コン波(19.45GHz)の交差偏波識別度(XPD)の測定データを用い、発雷時のXPDの急変現象について、局舎近辺の落雷位置との照合を行うとともに、その変動の大きさや変化の方向について検討を行った。その結果、約半数のXPDの急変に関して対地雷撃の記録と実際に秒単位で時間的な一致が見られ、雷撃位置は伝搬路に相当する南方を中心に距離4〜12kmの範囲に主に分布することが分かった。さらに、交差偏波位相から推定される伝搬路上における雷雲内の氷晶主軸の平行傾き角の分布に注目し、詳しい解析を行った結果、氷晶は衛星側(南側)から見て時計回り方向に傾いている場合が多く、各対地雷撃による変化の直前には、さらに同じ方向に傾きが増す場合がほとんどであることがその著しい特徴として得られた。そして、これらの変化後と変化前の値の分布は、それぞれ"空気力学的"及び"静電界的"な力の作用により、ほぼ説明可能であることが分かった。今回の測定では従来の低仰角伝搬路の場合と異なり発雷後にXPD値が逆に上昇する事例も多く得られたが、この現象は放電路近辺の空中電界の影響による氷晶の配列の効果がむしろ純粋に現れていると解釈され、伝搬路が比較的短い高仰角測定の特徴であると言える。また従来から得られている急変時のXPD値の低下については、急変前に放電路近辺の氷晶が大きく傾いた結果、放電路以外におけるXPD劣化との間に生じる"相殺"が原因であることが、簡単な数値計算により示された。
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