研究概要 |
筆者はすでに非線形連成振動方程式を導きその基本的な特性を確認するとともに,孤立波の砕波が計算の中で自然に表現される可能性を指摘している.本研究ではこれをさらに進め,(1)斜面上の砕波が連成振動方程式によってどのように表現され,特に砕波点がどのように求められるかを明らかにするために,種々の数値計算をパーソナルコンピューター上で実施した. 平成8年度は,水底の影響を強く受ける領域に波の主要部分が進行するにつれ,数値的な不安定が生じ始めることを見い出した.この数値不安定は波の谷の部分でより顕著であり,明らかに砕波によるものとは異なる.したがって,数値計算上の問題と考えられる. 平成9年度は前年度での計算上の数値不安定について詳しい検討を加えた.この結果波の谷の部分で生じる数値不安定は時間分割幅dtを変えることである程度のコントロールが可能であることが判明した.時間分割幅dtを小さくすると計算開始後早い段階で数値不安定が生じ,大きくすると長い時間安定な計算が可能となる.いわゆる常微分方程式の数値解法において言われる数値不安定と良く似た現象である.しかし時間分割幅dtを大きくした場合,精度のよい計算のためにはCFL数を1に近づける必要があり,すなわち空間分割幅dxも大きくしなければならない. 本研究ではとりあえず,安定な計算を主目的として空間分割幅を波長の1/24に固定し,CFL数を小さくすることで計算を試みた.残念ながらその結果は予想に反し,計算途中での発散を招いた.この原因は波動場の性質によるものである.本研究では静止した水面に波が進行する状況を想定し,計算を行っている.このため波の先端部分で振幅が変化することに伴う長周期波が発生する.この長周期波に対するCFL数が1を上回り,この結果発散が生じたものである. これらの結果を踏まえて本計算手法で安定に波が砕波点近傍まで計算できる波の条件を算出すると比水深h/L<1/20となり,ほぼ長波の領域に属する.この領域では従来より用いられている非線形長波方程式が適用でき,残念ながら,非線形連成振動方程式を用いることは意味の無いこととなる.
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