研究概要 |
住民や地域との交渉過程を伴う公共事業においては,パブリックインボルブメントの手続きが今後ますます重要性を増すと考えられる.現状においても説明会や公聴会など情報提供,意見交換の場は存在するが,必ずしも意志の疎通に有効に活用されているわけではなく,一方通行の情報提示に終始するケースも見られる.その原因は,1)事業実施以前の計画策定段階における住民・市民参加の手続きの不在である.また2)従来の公聴会等は立場や価値観の多様な集団を対象とした場であり,そこでは焦点を絞った効果的なコミュニケーションを図ることが本来困難な点も指摘される.加えて,3)住民等の受け手側にいかなる情報が不足し,事業のどの要素が理解されにくいか等を行政側が十分に把握していない点,4)交渉時の情報提供方法の問題点も挙げられる. 本研究は以上の問題点のうち主として2),3)に関する検討を行い,フォーカスグループミーティングのような対象を絞った交渉方法の検討に資するため,地権者住民の知識および理解状態の定量的把握に基づき,集団をいくつかのグループに分類するというセグメント化手法の構築を行った.またセグメント結果に基づき地権者を複数のゲーム主体とみなした上で事業への誘因両立性をもつ制度設計への示唆を試みた. まず地権者住民の知識状態および理解状態を定量化するために,本研究では土地区画整理事業区域の地権者住民を対象として質問調査を実施し,その結果に潜在変数モデルの一つであり非線形現象の表現に適した項目反応理論を適応した.項目反応理論の適応から,個人の特性を表す知識パラメータと理解パラメータが得られ,その分布状況から「知識レベルの高いものが理解レベルも高い」との簡単な関係が必ずしも成立しないことが明らかにされた.また,個人の所得や職業および定住意向によっても両者の関係が異なることが示された.さらに意見調整の場への参加意向について,知識および理解レベルの高いグループは,研究会の段階から積極的な参加意向が強いのに対し,理解レベルに対して知識レベルが相対的に低いグループは調整の場への参加意向は低く,なるべく関わりたくないと考えている関係が捉えられた.
|